糖尿病

 

糖尿病には2つのタイプがあります。

 

ひとつは遺伝的素因のある方が、ある年齢以後肥満や運動量の低下をきっかけとして発症するタイプで、多くの糖尿病はこのタイプです。もうひとつは、突然(比較的若いときに)膵臓のインスリン(後述)産生細胞の機能不全がおこり、インスリンが作れなくなり、はじめからインスリン注射が必要なタイプ(このタイプは少ないです)です。

ここでは一般的な前者について説明します。

 

食べたものは腸管で分解されたあと、腸管の毛細血管から吸収され血液中に入ります。吸収され血液中に入った糖(ブドウ糖)は、そのとき体が必要としている分はエネルギー源として使用されますが、余った多くの糖は筋肉や肝臓に取り込まれて、貯蔵されます(そのため健康な方では食後血糖値はある程度上昇しますが、それ以上上昇しません)。

血液中から糖が筋肉、肝臓へ取り込まれるときインスリン(膵臓で作られる血糖を下げるホルモン)の助けが必要です。健康な状態で糖1個をとりこませるのに必要なインスリンの量を仮に1とします。糖尿病の方はこれが3とか、通常以上必要となっています(インスリンそのものの性質は同じなのですが、筋肉や肝臓の糖をとりこませる部位がインスリンに対して鈍感になっています。これをインスリン感受性の低下といいます)。

このため初期、前半期糖尿病の方は血液中のインスリンの濃度は高くなっています(健康であったときのインスリンの量では血糖を思ったように血糖を下げれないため膵臓はがんばって多くのインスリンを作るようになります。これを高インスリン血症とよびます。この高インスリン血症そのものも動脈硬化性の病気を増悪させるといわれています)。しかし最後には膵臓は疲れはててしまってインスリンを作れなくなってきます。このような状態ではインスリン注射なしでは治療できなくなります。もともと日本人は農耕民族で穀物を主に食べていた関係もあり(血糖値があまり上昇しない食生活を送っていたため)、狩猟民族で肉食の白人に比べ膵臓がインスリンを産生する能力が遺伝的に低いとも言われています。

 

なぜ、糖尿病の治療(病気のコントロール)が必要なのか。

血糖値のコントロールが悪い状態を放置しておくと、次の二つの血管障害がおこり合併症がおこってくるからです。

一つ目は、脳梗塞や心筋梗塞のように比較的大きな血管(動脈)がつまって起こる病気がおこりやすくなるため。これらは発症すると麻痺を残して生活の質を損なったり、命を脅かすような状況も起こりえます。原因のひとつとして空腹時と食べた後の血糖値の差が大きいと、動脈の内皮細胞(血管の内面を覆っている細胞)が痛んで該当部位の血管内に血栓ができて詰まりやすくなるからです(血液は本来血管内ではかたまりませんが、これは血管の内側が内皮細胞で覆われているからです。内皮細胞がいたむと、そこで血液が固まって血管を詰めてしまいます。これを血栓といいいます)。糖尿病の初期には空腹時の血糖値はかすかに上昇もしくは正常なのに、食後の血糖上昇が正常をこえて高い時期があります。従って糖尿病は比較的初期の方でも心筋梗塞などの発生頻度が高くなります。

もうひとつの理由は糖尿病発症後5年から10年すると糖尿病の三大合併症である糖尿病性腎症(悪化すると腎臓の働きが悪くなり人工透析が必要な状態となります。人工透析を受けている方の原因疾患は糖尿病性腎症がトップと言われています)、糖尿病性網膜症(目玉の中の内側を覆っている網膜の血管が障害され、ほっておくと眼球内に出血して、最悪の場合失明する)、糖尿病性神経障害(足の裏などがじんじん痛くなったり、男性ではインポテンツの原因になることもあります)がおこってくるからです。これらは糖尿病により細い動脈がいたむために、おこってきます。

 


治療

 

食事療法

食事量のコントロール、適正なカロリー制限(特に糖質制限)が必要です(特に肥満傾向の方はより重要です)。

たとえば事務的な仕事をされている方は標準体重あたり25から30キロカロリーの食事が必要となります。食事内容のバランス(炭水化物50~60%、たんぱく質20%、脂質20%)、時間配分(毎食均等にたべる)も重要です。糖尿病の食事療法で、いきなり食品交換表を使い、自分でカロリー計算をして食事内容を考えるというのはなかなか難しいかもしれません。また実行不可能な低カロリー食も長続きしにくいです。しかし多くの方は糖尿病を指摘される前はかなりたくさん食べられていることが多いです)。とりあえず簡単にできることから改善していきましょう。

ご飯は大きくない茶碗1杯(あくまでも小茶碗に山盛りでない小もりです)、脂っこいくない食事(脂質1gは9キロカロリー、炭水化物、たんぱく質は1g4キロカロリーですので、油の多い食事をとるとどうしてもカロリーオーバーになりやすいです、ご飯、魚、とうふなどで構成されている昔から日本人が食べていたような和食がよいと思います)。食材としてはたとえば牛肉ならしもふりではなく油の少ない赤身、鶏肉なら皮のついていないささみ。同じ重さの鶏肉でもささみは皮付きの半分のカロリーです。調理方法を例にとると揚げ物、てんぷら、いためもの、シチューはできるだけ避け、焼くにしても網焼きやテフロン加工のフライパンで油の使用量をへらすなどにしてはいかがでしょうか)。バランスよく食べるためには同じものの重ね食い(ラーメンとご飯など)はやめ、主食(ご飯、パン、炭水化物)1品、主菜1品(学校給食で例えればいわゆる大おかず、たんぱく質と脂質)副菜2品(いわゆる小おかず、野菜、たんぱく質など)をとりましょう。

野菜は1日350gとることが推奨されますが、これは生で食べると見た目は多いですが、おひたしなどにして食べるのもひとつの手です。サラダを食べるときのマヨネーズ、ドレッシングには注意してください。マヨネーズ大さじ1杯はご飯半杯分のカロリーがあります。かぼちゃ、イモ類は野菜というより炭水化物になりますのでご注意ください。果物はビタミン補給に重要ですが皆様が考えられているよりカロリー、糖質が高いので適量にしましょう。例えばりんご1個、みかん4個はそれぞれご飯1杯分に相当します。一般的には外食、スーパーの惣菜やコンビニ弁当はカロリーと塩分が高く設定されていることが多く注意が必要です(高血圧のある方は特に塩分を減らしましょう、理想的には6g)。ラーメンの汁を全部のむと6~8gの塩分をとることになります(うどんは4.5g)。全部は飲まないでください。急に薄味にするのはむつかしいですが、酢や香辛料(からし、こしょう、七味とうがらし、レモンなど)で代用してみてください。

間食はできるだけやめましょう。食べるものにもよりますがチョコレート100g(おおきい1枚)は550キロカロリー、清涼飲料水も注意が必要です。缶コーヒー250ccは約100キロカロリー、ご飯半杯分です。また野菜ジュースも商品によってもかなりのカロリーのものがあります(果物ジュースが混じってるものなど)。たとえば1600kの食事がどれくらいの量の食事かを体験するひとつの方法として、糖尿病食の宅配などもあり、これを短期間ためしてみる方法もあります。

 

運動療法

糖尿病の運動療法は前述のインスリン感受性を高めるはたらきがあり重要です(なお重症の合併症がある場合、糖尿病のコントロールが極めてわるい状態では運動が好ましくない場合もありますので、受診時確認してください)。運動の種類は有酸素運動です。早歩きの散歩(長く続けられるが、すこししんどい程度)や水中歩行などが好ましいです。筋肉量を保つため、軽い筋力運動を少し取り入れてください。最低30分週3回以上しましょう。なお肥満を改善する目的の場合は40分以上必要です。

開始前に短時間の軽いストレッチ運動の準備体操をしましょう。靴は適切な運動靴を選びましょう。運動するタイミングは原則として食後しばらくしてがよいです。

 

朝起床直後(とくに空腹状態や寒いとき)の運動は避けましょう。この時間帯は体の循環器系を調節するホルモンバランスが不安定で心筋梗塞や脳卒中が起こりやすいといわれています。仕事が多忙で運動の時間をとるどころではない、と言われる方も、できるだけ階段を使用する、通勤のある部分を早歩きであるくようにするなどの工夫で、なにもしないよりだいぶちがいます。

 

薬物治療

前述のように糖尿病ではインスリン感受性が低下しているため腸管から吸収された血液中の糖の筋肉、肝臓への取り込みがうまくいかず血糖値が上昇します。インスリン感受性を改善させる薬剤としてアクトス、メルビンなどがあります。糖尿病そのものは比較的軽症な場合でも、食後に血糖上昇が大きいと心筋梗塞などの合併症の発生リスクが高くなります。

これをおさえる薬剤としてインクレチンというホルモンの血中濃度を保つための「DPT-4合成阻害剤」や腸が炭水化物の吸収速度をゆっくりにさせる薬(ベイスンなど、ベイスンは食事中の炭水化物の比率が必要以上に低いと、効きにくくなりますので、脂肪の多い食事などは注意が必要です)や短時間作用型の血糖降下剤(グルファスト、スターシス)があります。空腹時血糖を下げる薬剤としてスルフォニルウレア剤(アマリール)があります。これらの薬剤は空腹時血糖値を下げる力はありますが、食欲が亢進する場合もときにあり注意が必要です。なおこれらの薬剤を使用していて、一旦血糖コントロールがうまくいっていても、その後血糖コントロールがうまくいかなくなることがあります(2次無効)。食事運動療法や併用薬の再検討後、インスリン治療などを考慮する必要があります。なおスルフォニルウレア剤のある程度以上の増量は膵臓のインスリン産生機能が低下(膵臓がつかれてインスリンを作れなくなる)するため使用量には注意が必要です。

 

食事運動療法が糖尿病治療の基本であることは繰り返し強調しますが、それでも血糖コントロールがうまくゆかない場合はインスリンを考慮します。日本人は白人に比べて遺伝的にインスリン産生能がひくいため、ある意味で早期のインスリン導入を考慮することは重要と考えます。最近は超即効型インスリンが使用できるため低血糖(血糖値が下がりすぎること)などの副反応も他剤にくらべて少なく、外来でのインスリン導入もしやすい状況です。

 

インスリンを開始したらインスリンを一生使用しつづけないといけなくなるのではないかと心配されるかたがおられます。ある一定期間インスリンを使用して、その間に膵臓のインスリン産生細胞を休養させることにより、膵臓のインスリン産生能が回復したり、糖毒性(糖尿病コントロールが悪く血糖値が高いことにより引き起こされる体の障害)がなくなり、インスリンを減量中止できる場合も多くあります。なおこのようにできるかどうかは、インスリン開始の時期(糖尿病がすごく悪くなってインスリンをやむをえず開始したのか、早期開始したのか)体質などにより異なります。糖尿病の方は糖尿病以外に高脂血症、高血圧、高尿酸血症などを合併されていることも多いですが、合併症予防のためにはこれらの積極的な治療が必要です。これらの生活習慣病はそれぞれは軽症でも糖尿病のみの場合に比べると脳梗塞や心筋梗塞などの合併症のおこる確率が倍々にたかくなります(糖尿病単独を1とすると、高血圧が加わることにより 4、高血圧と高脂血症が加われば8倍のリスクとなります)。

喫煙もひとつのリスクファクターで、ひとつの病気が加わったのと同じだけの影響力があります。